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『「外圧」の日本史』書評:本郷和人と簑原俊洋が解き明かす日本の国家形成【前編】

こんにちは、なおじです。

外圧が日本の歴史を動かしてきたという視点から日本史を読み解く試みが注目を集めています。

本郷和人氏と簑原俊洋氏による『「外圧」の日本史 白村江の戦い・蒙古襲来・黒船から現代まで』(朝日新書、2023年)は、古代から現代まで日本が外国からの圧力を受けた重要な転換点を対談形式で解説した一冊です。

35年間社会科を教えてきたなおじが、この本の魅力と歴史教育における意義を詳しく紹介します。

本書は全14章から成る大作のため、本記事では前編として第1章から第9章(古代から明治時代まで)を扱います。

後編では第10章以降(大正時代から占領期まで)を解説する予定です。

「外圧」の日本史 白村江の戦い・蒙古襲来・黒船から現代まで (朝日新書)

この記事でわかること

  • 本郷和人氏と簑原俊洋氏の専門性と対談の特徴
  • 白村江・元寇・黒船など外圧が日本史に与えた影響
  • 本書が提示する「応用歴史学」という新しい視点
  • 元教師が評価する本書の教育的価値と活用法
  • 現代の日米関係・安全保障を考える上での示唆
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目次

『「外圧」の日本史』の基本情報と著者の専門性

『「外圧」の日本史』は、中世史の第一人者である本郷和人氏(東京大学史料編纂所教授)と、日米関係史を専門とする簑原俊洋氏(神戸大学大学院教授)による対談形式の歴史書です。

全14章構成で、遣隋使・遣唐使の時代から始まり、白村江の戦い、蒙古襲来、黒船来航、日清・日露戦争を経て、戦後の占領期まで扱っています。

本書の最大の特徴は、異なる時代を専門とする二人の研究者が対話することで生まれる「知的スパーリング」にあります。

本郷和人氏の中世史研究と歴史観

本郷和人氏は1960年生まれです。

東京大学・同大学院で日本中世史を専攻しました。

『東大生に教える日本史』など一般向けの著作も多く、歴史の通説に疑問を投げかける鋭い視点で知られています。

本書では、日本が古代から科挙を採用せず世襲を基本としてきたことや、元寇が「外交の失敗」だったという指摘など、教科書とは異なる解釈を多数提示しています。

👉関連記事:元社会科教師が震えた!本郷和人『東大生に教える日本史』書評

簑原俊洋氏の応用歴史学という新視点

簑原俊洋氏は1971年生まれの日系アメリカ人研究者です。

神戸大学大学院で日米関係史を教えています。

本書のまえがきで簑原氏は、自身が1970年代にアメリカ中西部で育った経験を語ります。

日米経済摩擦の時代に「日本がアメリカを追い越す」という議論を目の当たりにしました。

その経験が日本への留学を決意させたといいます。

簑原氏が本書で提唱する**「応用歴史学(アプライド・ヒストリー)」**という概念は重要です。

これは「歴史は韻を踏む」という考え方に基づいています。

過去のパターンを読み取ることで未来への示唆を得ようとする試みです。

単なる歴史の羅列ではありません。

現代の安全保障や外交問題を考える材料として歴史を活用する姿勢が本書全体を貫いています。

対談形式が生み出す読みやすさ

専門的な歴史書でありながら、対談形式を採用することで驚くほど読みやすくなっています。

本郷氏のユーモアを交えた語り口と、簑原氏の素朴な疑問が絶妙に組み合わさります。

難解になりがちな歴史的事実が自然な会話の中で理解できる構成です。

各章の冒頭には「時代を読む」というコラムがあります。

その時代の概要を簡潔にまとめているのです。

このコラムを先に読んでから対談本文に入ると、理解度が格段に上がります。

古代から中世の外圧が形作った日本

本書の前半部分では、古代から中世にかけて日本が受けた外圧と、それが国家形成に与えた影響が詳しく論じられます。

この時期の外圧は、日本という国家の基本的な枠組みを決定づけた点で極めて重要なのです。

白村江の敗戦が生んだ統一国家

第2章で扱われる**白村江の戦い(663年)**は、日本史における最初の大規模な対外戦争の敗北として重要な転換点です。

百済救援のために朝鮮半島に派遣された日本軍は、唐・新羅連合軍に完敗しました。

この敗戦が日本に与えた影響は計り知れません。

天智天皇は外敵の襲来に備えて防人や烽(狼煙台)を配置しました。

水城や山城を築いて防衛体制を強化したのです。

さらに重要なのは、この危機感が中央集権国家建設を加速させたことです。

天智・天武・持統の三代の天皇の時代に、日本という国号、天皇という君主号、元号という紀年法が定まりました。

こうして日本の原型が完成したのです。

本郷氏は「白村江の敗戦を機に統一政権ができた」と指摘します。

外圧が国家形成の原動力になったことを強調しているのです。

👉関連記事:「六国史」書評 – 古代日本の歴史書が描く宮廷ドラマ

遣唐使の命がけの技術導入

第1章では、遣隋使・遣唐使について、単なる文化交流ではなく命がけの情報収集活動だったことが強調されます。

当時の遣唐使船は4隻に1隻が遭難しました。

25%の確率で死亡するという過酷な航海だったのです。

それでも飛鳥・奈良時代のエリートたちは中国語を必死に学びました。

大陸の先進技術を持ち帰ったのです。

本書では、彼らが中国語とサンスクリット語の両方を使いこなしていたことも紹介されています。

興味深いのは、日本が律令制度は導入したものの、科挙(官僚登用試験)は採用しなかった点です。

本郷氏は「日本には官僚制はない」と断言します。

世襲を基本とする日本独特のシステムが古代から続いていることを指摘するのです。

この「取捨選択の姿勢」こそが、外圧に対する日本の基本的な対応パターンだと言えるでしょう。

元寇と外交失敗の教訓

第3章の**蒙古襲来(元寇)**については、本書は従来とは異なる解釈を提示します。

文永の役(1274年)と弘安の役(1281年)の2回にわたる元軍の襲来は、日本史上の重大事件です。

しかし本郷氏によれば、フビライ・ハンは当初、日本に対して極めて丁寧で対等な国書を送っていたといいます。

日本が朝貢に訪れれば十倍の返礼をする用意があったというのです。

ところが鎌倉幕府は元の国書を無視しました。

さらには使者の杜世忠の首を斬るという「野蛮人のやること」をしてしまいます。

本郷氏は執権・北条時宗の判断を「大失敗」と評価しています。

これが二度の蒙古襲来を招いた主因だと論じるのです。

もし適切に対応していれば、元軍は攻めてこなかった可能性が高いといいます。

35年間教師として歴史を教えてきたなおじの視点から見ても、この「外交の失敗」という解釈は歴史教育において非常に重要です。

「神風」による勝利という美談ではありません。

外交判断のミスが招いた危機という冷静な分析は、現代の国際関係を考える上でも示唆に富んでいます。

【表:本書前編で扱われる主要な外圧イベント】

時代イベント年代外圧の種類日本への影響
第1章飛鳥・奈良遣隋使・遣唐使600〜894年文化的外圧律令制導入・国家体制整備
第2章飛鳥白村江の戦い663年軍事的外圧中央集権国家形成
第3章鎌倉蒙古襲来1274・1281年軍事的外圧集団戦法の導入・幕府弱体化
第4章戦国鉄砲伝来1543年技術的外圧戦国時代の終焉
第5章戦国〜安土桃山朝鮮出兵1592〜1598年軍事的外圧豊臣政権の弱体化
第6章江戸初期キリスト教弾圧1587〜1639年宗教的外圧鎖国体制の完成
第7章幕末ペリー来航1853年外交的外圧開国・幕藩体制崩壊
第8章幕末ハリスと通商条約1858年外交的外圧不平等条約と貿易開始
第9章明治日清・日露戦争1894〜1905年国際競争帝国主義路線への傾斜

※出典:『「外圧」の日本史』朝日新書、2023年、各章より作成

近世から近代の開国と富国強兵

本書の中盤では、鉄砲伝来から幕末開国、そして近代国家への転換期が扱われます。

この時期の外圧は、日本を世界の中の一国として位置づけ直す契機となったのです。

黒船来航と幕府の対応戦略

第7章で扱われる**ペリーの黒船来航(1853年)**は、日本の近代化の出発点として重要です。

簑原氏の専門領域であるこの部分では、アメリカ側の事情が詳しく語られます。

興味深いのは、ペリーは実は日本に来たくなかったという指摘です。

しかし一度任務を受けると、ペリーは日本を徹底的に研究して交渉に臨みました。

4隻の蒸気船で浦賀沖に現れました。

久里浜に上陸してフィルモア大統領の国書を渡した様子が詳述されています。

本郷氏は「幕府はペリーを開国に利用した」と論じます。

外圧を口実に国内の反対派を抑え込む手法は、古代の白村江以来の日本の伝統的パターンと言えるでしょう。

第8章では、ハリスが自ら望んで来日した親日家だったことが紹介されます。

イギリスの植民地化から日本を守ろうとしたというのです。

ハリスの来日と日米修好通商条約締結の経緯は、単なる不平等条約という評価を超えた複雑な側面があることがわかります。

👉関連記事:米中対立で日米同盟はどうなる?日本の選択を徹底解説

日露戦争の勝利と代償

第9章では、日清戦争(1894〜1895年)と日露戦争(1904〜1905年)が扱われます。

日清戦争については、「日本人の対中意識を根底から変えた」戦争だったと分析されています。

それまで文化的先進国として見ていた中国に勝利しました。

そのことで日本の中国観が一変したのです。

日露戦争については、本郷氏が「本当に輝かしい勝利だったのか?」と疑問を投げかけます。

勝利はしたものの、旅順攻囲戦での多大な犠牲がありました。

講和条件が国民の期待に応えられなかったこともあります。

その代償は大きかったのです。

本郷氏は「最初のつまずきは大逆事件だった」と指摘します。

この時期から日本は独自のビジョンを示せなくなったと論じるのです。

教師として生徒に日本史を教えてきたなおじの経験から言えば、この冷静な評価は重要です。

勝利の美談に終始するのではありません。

その後の影響まで視野に入れた歴史理解こそが、真の歴史教育だと感じます。

鉄砲伝来が戦国時代を終わらせた

第4章では、1543年の鉄砲伝来が日本の軍事技術に革命をもたらしたことが論じられます。

本郷氏は鉄砲が「人殺しに対する抵抗感をやわらげた」と指摘します。

遠距離から敵を倒せる武器の登場が、日本の戦い方を根本的に変えたのです。

また、鉄砲製造には硝石が必要でした。

それを入手するための貿易を制する者が軍事を制する構図が生まれたことも重要です。

織田信長の強さの秘密も、経済力と貿易管理にあったことが明らかになります。

鉄砲の普及が戦国時代の終焉を早めたという分析は、技術革新が歴史を動かす例として興味深いものです。

元教師が評価する本書の教育的価値

35年間社会科を教えてきたなおじの視点から、この本の教育的価値と読み方のポイントをまとめます。

本書は単なる歴史書ではありません。

現代を生きるための知恵を与えてくれる一冊です。

歴史教育における外圧視点の重要性

本書が提供する「外圧」という切り口は、歴史教育において非常に有効です。

日本史を内側からだけ見るのではありません。

国際関係の中で捉え直す視点は、生徒たちに歴史のダイナミズムを理解させる上で効果的です。

なおじが教師時代に感じていたのは、教科書的な歴史記述では生徒の興味を引きにくいということでした。

しかし、「なぜその時代に変化が起きたのか」を外圧という観点から説明すると、生徒たちの理解が深まることを何度も経験しました。

白村江の敗戦が中央集権国家を生んだこと。

元寇が集団戦法を導入させたこと。

こうした因果関係は、生徒にとって非常にわかりやすい説明です。

👉関連記事:日本史学び直し大人におすすめ本5選|元教師が教える挫折しない3ステップ

対談形式の効果的な読み方

本書は対談形式であるため、一般的な歴史書よりも読みやすく構成されています。

しかし、その分、情報が散在する傾向もあります。

効果的な読み方としては、各章の冒頭にある「時代を読む」というコラムを先に読むことをお勧めします。

それから本文に入るのです。

このコラムは各時代の概要を簡潔にまとめています。

対談の内容を理解するための地図のような役割を果たしているのです。

特に歴史が苦手な方は、このコラムを活用することで理解度が格段に上がるでしょう。

また、気になる章から読み始めても問題ない構成になっているのも本書の利点です。

現代の国際情勢を考える材料として

本書の最大の価値は、単なる歴史の知識提供にとどまらない点にあります。

現代の国際関係や安全保障問題を考える材料を提供しているのです。

簑原氏がまえがきで述べているように、パックス・アメリカーナが揺らぎ始めている現在、日本はどう対応すべきかという問いが本書全体を貫いています。

ウクライナ侵攻やアメリカの分断など、現代の不安定な国際情勢があります。

そうした中で、「外圧」にどう対応してきたかという日本の歴史的経験は、重要な示唆を与えてくれます。

歴史を学ぶことは未来を考えることだという簑原氏の「応用歴史学」の姿勢に、なおじは強く共感します。

過去のパターンを知ることで、現在の選択肢を冷静に評価できるようになるのです。

👉関連記事:トランプ大統領の日本への影響分析:経済、外交、そして未来の展望

Q&Aで振り返る『「外圧」の日本史』前編

Q1:この本は歴史初心者でも読めますか?

読めます。

対談形式で平易な言葉を使い、各章冒頭に「時代を読む」という背景解説があります。

そのため、歴史の基礎知識がなくても理解できます。

本郷氏のユーモアを交えた語り口も、堅苦しさを感じさせません。

Q2:教科書と違う解釈はありますか?

あります。

例えば元寇を「外交の失敗」と捉える視点があります。

また、日露戦争の勝利を必ずしも輝かしいものとは見ない評価もあります。

通常の歴史教科書とは異なる解釈が随所に見られるのです。

これらは学術的な根拠に基づいた見解であり、歴史理解を深めるのに役立ちます。

Q3:どのような読者に特におすすめですか?

日本史に興味がある方、国際関係や外交に関心がある方におすすめです。

教育関係者、ビジネスパーソンにも最適でしょう。

特に、日本の意思決定パターンや組織文化を歴史的に理解したい方には、本書が提供する視点が非常に有益です。

Q4:本書を読むと現代の国際問題への理解も深まりますか?

深まります。

簑原氏が提唱する「応用歴史学」は、過去のパターンから現代や未来への示唆を得ることを目指しています。

特に日米関係や中国との関係を考える上で、白村江の敗戦や元寇、黒船来航といった歴史的外圧への対応パターンを知ることは不可欠です。

【後編予告】

本記事では『「外圧」の日本史』の第1章から第9章(古代から明治時代まで)を扱いました。

後編では第10章以降を取り上げます。

  • 第一次世界大戦とパリ講和会議(日本が五大国の一員となった時代)
  • 大正デモクラシーと排日移民法(脱欧入亜への転換点)
  • 満州事変から日中戦争(国際秩序への挑戦)
  • 太平洋戦争開戦と敗北(真珠湾攻撃と神風信仰)
  • 占領期と戦後日本の原型(マッカーサーと民主化)

大正時代から占領期までの外圧が、現代日本の基盤をどう形作ったのか。

簑原氏の専門分野である日米関係史の視点から、より深い分析が展開されます。

後編もぜひご期待ください。

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筆者紹介|なおじ

元社会科教師として35年間教壇に立ち、小学校・中学校で歴史・地理・公民を教えてきました。

現在は8つのブログ(ドラマ芸能政治歴史スポーツ学び書評)を運営しています。

書評記事では、単なる内容紹介にとどまらず、「教育現場でどう活用できるか」「現代への示唆は何か」を丁寧に分析するスタイルを心がけています。

バスケットボール部顧問として約10数年間生徒を指導した経験もあり、教育現場で培った「わかりやすく伝える力」を記事執筆に活かしています。

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